宇野千代プロデュースのお線香「淡墨の桜」
立春を過ぎ、本格的な春までもう少しです。
今回は、日本香道さんのお線香「薄墨の桜」をご紹介します。
燃焼時間は25分。煙が極少なので、火を灯して少しの間は香りを感じにくかったりします。
しかし、10分ほど経つと部屋中が上品な甘い香りにつつまれます。
これは、配合されている桜皮ポリフェノールのクマリンという成分から出ているものです。
この成分には、抗菌作用があり、生活する環境を衛生的にします。
つまり、嗅ぎ重ねていく毎日のうちで身体にもよい効果が期待されるというわけです。
このお線香をプロデュースした宇野千代さんは、作品の中に桜の花を投影させて書かれる作家です。
また、桜の花や花びらをモチーフにした和服、着物デザイナーでもあります。
宇野さんの作品の中にも「薄墨の桜」というものがあります。
樹齢1200年幹周り11mの桜の古木が岐阜県の尾根村にありました。
その桜が枯れるかもしれないというお話から、その桜を蘇生させることと、宇野作品独特の艶のある恋愛模様が広がっていきます。
なぜ宇野さんが桜の花に魅かれたのでしょう。
俳句では「花」と表したときにイコール「桜」を意味します。
他の花は、〇〇の花と表記しなければ俳句では使うことができません。
桜の花と人間の一生を、「花」として表現したと思われます。
桜が慕われているのは、現代の新しい埋葬(お墓)スタイルとしても桜の木の下に戸籍に関係なくいろんな人が埋められたりする墓苑もできています。
桜は生命体としての始まりとして、また必ず散る終わりを示すこととして、人間の生涯と重ね合わせられたりします。
散るけれど、樹齢は長く毎年咲く。
枯れ落ちたと思っても、翌年にはどこかから新芽を芽吹かせる。
そこからまた、新しい命が紡がれる。
宇野さんは「泥棒と人殺し他は何でもした」と語っています。
この言葉に凝縮されているのが、まさに桜という木の存在そのものだからではないでしょうか。
「薄墨の桜」の香りの中で、「薄墨の桜」を読むのも一興かもしれません。
桜のつぼみは、もう幹の下で咲く支度をしています。