散骨された有名人

散骨など埋葬方法の多様化により、お墓そのものを作らない、という考え方が少しずつ浸透してきています。

これとて時代の流れ、というものでしょう。

しかし、まだまだ散骨というのは珍しいことです。

そこで実際に散骨された人にはどんな人がいるのか、ということを通して、この新しい文化について考えてみたいと思います。

テナー歌手・藤原義江さんは、生前から、周囲にお願いしてることがありました。

その内容はざっとこんなものでした。

「お葬式はしないで下さい。それだけでなく、お墓も作らないで下さい。骨はナポチの海にまいて下さい。」

こんな事を周囲に言っていたようです。

藤原さんが亡くなった後、遺族は、藤原さんが生前に船大工に注文してつくらせてあったという、遺骨専用の小舟に、遺髪と爪と遺影を乗せて藤原さんの遺言の地ナポリの海に流したそうです。

小舟は美しい菊の花で飾られたそうです。

カトリックの国イタリアでは、散骨が認められないために、遺髪と爪という選択となりましたが、これも立派な散骨と言えるのではないでしょうか。

なにより本人が散骨を望み、遺族がその意思を尊重しようとしたことが重要なのではないでしょうか。

それにしても、ナポリの海に綺麗な菊で飾られた和船が、流される風景は、どのようなものだったのでしょう。

お葬式はいらないと藤原さんは仰ったそうですが、なぜか、この散骨自体が、物語のように美しいお葬式の様に思えてなりません。

藤原さんは、享年78歳。

亡くなられたのは1976年です。

この時代に散骨とは、どれほど珍しく、驚きを持って受け入れられたことでしょう。

このエピソードを聞くだけでも、ご本人がどのような人であったかが偲ばれます。

年々お葬式が個性的になっていくのは、葬儀を通して遺族が故人を思い出して供養する際も、話題にしやすく、すんなり思い出せる装置のような役割を持てるためかもしれません。

そういう意味において藤原さんのは、素晴らしく個性的で美しく印象的なものだったのではないでしょうか。